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東京高等裁判所 昭和49年(行コ)17号 判決

東京都府中市白糸台五丁目七番四番

控訴人

細川勇五郎

右訴訟代理人弁護士

佐瀬昌三

竹村悦子

東京都府中市分梅町一丁目三一番地

被控訴人

武蔵府中税務署長

矢花三郎

右指定代理人

前蔵正七

岡村俊一

中村紀雄

平田恒夫

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取消す。立川税務署長が控訴人の昭和三五年分の所得税について昭和三八年八月三一日付でした更正処分を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠の関係は、左記のほか原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

(控訴人)

一、控訴人において被買収者らの代表者中村仲次郎外一名に対し合計金一、六五五万円を交付した(甲第二七号の一ないし三の各借用証)のが、仮りに農民税金引当金および地元懸案処理引当金の前渡金たる性質のものではなくて代替地買収のための貸付金であつたとしても、相次ぐ地元中央委員長の急死に伴い地元中央委員長と代替地を提供した各地主との取引関係を記した資料が散逸し、どこにどれだけの代替地を確保したのか誰にいくら代替地費用を支払つたのか一切不明のままであり、後に清算することが不能になつたのであるから貸倒れ損失として全額経費として計上を認められるべきである。

二、原判決は、経費の性質上原告において立証が容易であるにもかかわらずその立証を遂げない以上その経費の支出は存しないものと推認せざるをえない旨判示して、地元利益分配金、農民税金引当金、地元懸案処理引当金および印鑑料の各支出の不存在を認定しているが、広範囲な一市町村全体に影響を及ぼす土地買収事業の通常の形態からみても右のような経費は必要不可欠な通常の経費であり、単に領収書が存在しないからといつて、従つて金額が明瞭でないからといつて、すべて不存在であると認定するのは、経費の立証責任をすべて控訴人に負わせたのと変りがなく立証責任分配の原則に反するものである。

(被控訴人)

一、控訴人において、その主張のような借用証という確固たる証拠があるのであるから、当然被買収者らの後任の代表者に対しその返済を請求し得るもので、客観的に貸倒れになつたものとは認め難い。仮りに未だ返済がなされていないとしても、それは控訴人が右金員の回収を放棄したからにほかならず、従つて必要経費となるものではない。

二、控訴人の主張する地元利益分配金、農民税金引当金、地元懸案処理引当金および印鑑料は、通常不可欠な経費とはいえないから被控訴人に立証責任はない。仮りにそれが通常不可欠な経費であるとしても、被控訴人は右経費の支出は存しないと主張しているのみであるから、そのために立証責任の分配が変わるものではない。

(証拠関係)

控訴人は、当審における控訴人本人尋問の結果を援用した。

理由

当裁判所も控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、左記のほか原判決の理由記載と同じであるからこれを引用する。当審における控訴人本人尋問の結果をもつてしても右認定判断を動かすに足りない。

一、原判決二〇枚目裏一〇行目から二一枚目表五行目までの括弧内の記載を括弧と共にすべて削除する。

二、控訴人は、被買収者に対し貸付けた合計金一六、五五〇、〇〇〇円(甲第二七号証の一ないし三)は回収不能となつたので貸倒れ損失として必要経費に計上されるべきである旨主張する。しかし、右主張のように仮りに右貸付金の全額を必要経費に算入すべきものとしても、必要経費の合計金額は二〇一、五五九、〇五五円となるに過ぎず(けだし、控訴人が従前「その他の経費」として主張する金額金四一、七八三、五三九円のうち(4)貸倒金九、五〇二、四八四円を、それに金七、〇四七、五一六円を増額した金一六、五五〇、〇〇〇円に訂正主張することとなる結果、「その他の経費」は合計金四八、八三一、〇五五円となり、既に認定した(1)土地買収代金一四七、七二八、〇〇〇円、(2)建財名義料五、〇〇〇、〇〇〇円に右主張にかかる金四八、八三一、〇五五円を全額肯認して加算しても必要経費の総額は金二〇一、五五九、〇五五円となるに過ぎない。)、これを本件収入金額から差引くと控訴人の係争年分の事業所得金額は二三、九三四、六六六円となり、本件更正処分において認定された総所得金額一七、二三七、〇二九円を超えることが明らかである。してみると、控訴人の右主張が仮りに理由があつてもなお本件更正処分における総所得金額の認定は正当であるから、右主張は採用し得ない。

三、控訴人主張のような地元利益分配金、農民税金引当金、地元懸案処理引当金および印鑑料の各支出は、本件において必要不可欠な通常の経費とは認めがたいところであつて、経費の性質上控訴人において容易に立証し得るものであるから、それにもかかわらず控訴人がその立証を遂げない以上右各経費の支出は存しないものと事実上推認せざるをえない。そして、このように認定判断したからといつて、控訴人主張のように「経費の立証責任をすべて控訴人に負わせたのと変りがなく立証責任分配の原則に反する」ということにはならない。

よつて本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条 八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官裁判長 岩野徹 裁判官 中島一郎 裁判官 桜井敏雄)

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